最後の忠臣蔵

あの忠臣蔵に続きがあった!という、国民的時代劇の後日談。レンタルDVDで鑑賞した。
日本人が大好きな「忠臣蔵」だが、正直あんまり詳しくはない。47人全員切腹したと思っていたから、生き残りがいたこと自体知らなかった。これって常識なのかな。どこまでが史実でどこからがフィクションなのか、あいまいなまま観てしまった。

討ち入り前に逃げた人がいただろうことは、想像に難くない。逐電という言葉は初めて耳にしたけど。稲妻を追うように素早く逃げることらしい。今は使わない言葉だよね。

「忠臣蔵」そのものが、現実にあった元禄赤穂事件から創作したものだけど、生き残りの寺坂吉右衛門と逐電した瀬尾孫左衛門、この二人は実際に存在したようだ。でもその後の行動は、はっきりしないらしい。本作はその辺のグレーな部分をうまく脚色して、世間の非難を浴びて生きる男たちのドラマを作り上げた。タイトルは「最後の忠臣蔵」だが、「もうひとつの忠臣蔵」とか「続・忠臣蔵」という方が、より正しい言い方かな。

役所広司演じる孫左衛門は、武士を辞めて商人となり、江戸の片隅でひっそりと生きている。そりゃそうだ、逐電したんだもの。墓参りに行けば、赤穂藩の旧家臣たちから殴る蹴るの暴行を受ける。そりゃそうだ、卑怯者なんだから。

でも彼が逃げたのは、決して自分の命が惜しかったからではない。討ち入り前夜に大石内蔵助に呼び出され、「隠し子いるんだけど、オレは多分死んじゃうから、お前面倒見てくれや」と頼まれてしまったからだ。本当はみんなと一緒に命を賭けて戦いたかった。でも他ならぬ内蔵助の頼みだから、断ることも無理。二つ返事で請け負ったのが、彼の運命の分かれ道だ。

赤ん坊だった可音に心血を注ぎ育て上げる孫左。美しく育った可音は、呉服問屋の青年に求婚され、そして旅立っていく。その過程で孫左の真のミッションも明らかになり、周囲の見る目は一変する。しかしよくここまで耐えたね。主君のために命を張るのも重任だが、生き恥をさらし、世間の罵声を浴びながら、誰にも理解されない秘密任務を成し遂げるなんて、並みの武士にはできない芸当だ。

絶対に偉ぶらない。ひたすら低姿勢。どこまでもストイック。自分が何のために生きているかを常に考え、そのためにはどんな労苦も惜しまない。こんなこと、どう考えても真似できんわ。よくぞ大石様の子供を、ここまで立派に育ててくれた。凛としたたたずまいの可音を見て、みんなそう思ったはずだ。

その可音こそ、本作のキーパーソンだ。決して裕福ではない暮らし。質素な食生活。自分の面倒を見るのは、なんか訳ありのおじさんだ。そんな中でも、大石内蔵助の血筋を引く高貴な雰囲気を持っている十代の女性。これはキャスティングに苦労したに違いない。

そんな難役を見事演じきったのが、「書道ガールズ」の好演も記憶に新しい桜庭ななみだ。あっちは元気な平成の女子高生だったが、こっちは江戸時代の和服娘と、何から何まで違う。こんなアイドルで大丈夫かと、最初は思った。

でも彼女のゆったりとした京都弁の台詞回しに、完全にやられました。髪を結った着物姿も様になっている。よくよく見ると、いかにも江戸時代にいそうな日本人顔だし。

そんな彼女が、自分を顧みずに育ててくれた孫左と離れたくないと願っている。なんだかせつないね。見た目で判断すれば、35歳くらいの年の差だろう。孫左からすれば絶対に恋愛の対象になんかならない。最近は年の差婚ブームだが、これ見ると加藤茶がいかにすごいかわかる。だってあっちは45歳差婚だから。

そんな可音も自分の境遇を知り、これまでの孫左の苦労を想い、本当はイヤだけど呉服問屋へ嫁ぐ決心をする。孫左への感謝と心からの愛を、上掛けのひと縫いひと縫いに込める可音。出来上がった上掛けを着た孫左に、可音は「昔のように抱いてほしい」と頼む。離れたくない可音。離れたいわけじゃないけど、自分の使命を選ばざるを得ない孫左。どっちの気持ちもわかる。胸を鷲づかみにされた気分だった。

無事に可音を送り出し、孫左も観ているこっちもほっとする。婚儀の席からも抜け出して家に向かう孫左。あれ?なんで最後まで祝ってあげないの? この辺から、違う胸騒ぎに襲われだす。

仏壇に報告する孫左を見て、いやな予感は増すばかり。ゆうの強引な誘いで夕餉を共にするも、二人が幸せになるような未来が感じられない。いよいよゆうも泣き落としにかかるが、それでもなびかない孫左。やばい、これは…。

可音を送り出したことで、内蔵助との約束は果たした。あとは一刻も早く、仲間の元に馳せ参じたい。やはり孫左は根っからの武士だった。死んでほしくはなかったが、生きている理由がなくなった彼を、この世につなぎとめるものはもう何もない。もう我々は見てることしかできないのだ。うわー、やっぱりこうなるのか。

ひとり仏壇の前に座り、刀を腹に刺し込む。左から右へ、真一文字に刃を動かす。見ているのが辛くなる切腹だった。せめて介錯でもいれば、楽にしてあげられるのに…。

そこに現れたのが孫左の盟友、寺坂吉右衛門だ。孫左の真意を悟り駆けつけたものの、あと一歩のところで間にあわなかった。彼にできるのはもう介錯しかない。刀を引き抜く吉右衛門。しかし、孫左は最後までストイックだった。

「介錯無用!」

そして自ら、頸の動脈を切る。

…崩れ落ちた吉右衛門と共に、しばらくは呆然と画面を眺めていた。色々な想いが去来して、言葉ではちょっと言い表せない。孫左の生き様、そして死に様に圧倒された。

これは日本人にしか理解できない映画だ。日本人だけが、このせつなさを噛みしめることができるはず。余韻がしばらく後をひく、時代劇の名作だった。

<おまけ>
最近は日本映画を観るときでも、セリフが聞き取れなかったり、固有名詞がわからなかったりするので、DVDだと字幕ONにすることが多い。

字体は丸ゴシック体が多いんだが、本作は手書きっぽい昔ながらの字幕書体だった。これが時代劇の雰囲気にマッチしてて、とてもよかった。ワーナーさん、粋な計らいしてくれますな。

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■映画『最後の忠臣蔵』

討ち入りで“死に損ない”、その後の人生を“生き損なった”男の生き様を、日本を代表する二人の俳優、役所広司と佐藤浩市が迫真の演技で見せている映画『最後の忠臣蔵』。 浅野内匠頭の松の廊下での狼藉から切腹、そしてその後の47人の赤穂浪士の吉良上野介邸への討ち...

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子供の頃から映画が大好き!いっぱい観てきたつもりですが、まだまだ勉強不足です。毎日映画だけ観て暮らすのが夢。


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